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ドイツ兵が伝えたソーセージ

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 第1次世界大戦、中国・青島で捕虜となったドイツ兵が日本の収容所で製造し、日本人にふるまった加工品を再現しようという取り組みが徳島県で続けられ、10月1日に鳴門市ドイツ館で開催された全国フォーラム『ドイツ兵俘虜(ふりょ)収容所を考える』で復刻版加工品を紹介する発表会が催された。
 (株)ウインナークラブ(徳島県石井町高川原)の松本聖一取締役が中心となり、ドイツマイスター・小林武治郎氏が全面的に協力して実現したもの。
 大正7年3月に鳴門市の板東収容所近く、霊山寺前の坂東公会堂で開かれた『収容所展覧会』の席上、捕虜が展示・即売した品目一覧をもとに15種類の加工品を再現し、全国フォーラムで試食に供された。
 会場では大正時代に使用していたナイフ、やすり、枝肉をつる二股フック、ノッキング用の突起が上部についた背割り用おの、のこぎり(胸割り用?)、毛抜き用パイプなどが陳列されたほか、写真や書物各種が披露された。
〈大阪 中村〉

レシピ、ケーシング、道具、飾り付け

 この加工品復刻の企画は、松本取締役が永年温めてきたもの。ドイツ館の中野正司副館長から「収容所内の新聞『ディ・バラッケ』に、収容所には2つの食肉店があり、捕虜が所内で飼育した豚を使い加工品をつくっていたことが記述されている」と教えられたのが端緒。

 「日本におけるドイツ年」を機に、日本で初めてベートーベンの交響曲第9番が板東収容所の捕虜によって演奏されたことを題材とする映画「バルトの楽園(がくえん)」が鳴門市で撮影されることになり、復刻の準備が加速した。

 その後、小林マイスターがプロジェクトチームに加わったことにより、資料の翻訳、ドイツ国内での時代考証、実際の製造協力といった各方面で補強がなされている。

 当初、資料はドイツ館が保存していた展覧会の15アイテムの品目一覧のみ。しかも『詰め物をした離乳前の子豚。たっぷり飾り付けがしてある』あるいは『豚舌の入ったアスピック。鉄十字勲章の飾り』『飾り付けをしたズルツェ』など見た目の記述にとどまっており、品目名から具体的に製品化できそうなものは「カイザー・ヤークトヴルスト」に限られていた。

 全国の知人の協力を頼りに資料集めを続けた結果、習志野収容所の捕虜が日本人に製法を伝授した加工品のレシピ入りテキスト『Wurst und Fleischwaren Fabrikation(ソーセージと食肉製品の製造)』が手に入った。これは捕虜の1人、食肉マイスターのカール・ヤーン氏が畜産試験場の飯田吉英技師へ技術を伝授する際に使った書物とされる。後に、食肉加工協会所長だった高坂和久氏が麻布大学獣医学部・坂田亮一教授らの助力も得て翻訳している。


 この訳本を一部参照しつつ、小林マイスターがヒゲ文字の原書にあたり、原料の配合を決定した。たとえば、塩の分量が現在の2倍以上使われていたこと、硝石だけは使われていたこと、当時はボイルしてからスモークしていたこと、レバーケーゼに入れるレバーの比率が”逆転”といえるほど多かったこと、豚の胃や牛の盲腸などもケーシングとしたことなど、復刻する上で最も重要な情報が製品に盛り込まれた。

 使用できる機械については、収容所内部を撮影した写真や大正初期に発刊された技術書をもとにチョッパーのみとし、包丁で丁寧に切り刻むことでカッターの役目をこなした。結着の成否が心配されたが、ウインナークラブ品質管理部の木村恒男主任の努力もあって成功にこぎつけている。

 とても難解だった「豚の飾り付け」については、小林マイスターがドイツのバイエリッシュ食肉学校に保存してある古書にあたり、イベント時に使う製品の写真を発見。パーティーを華やかに彩るための演出だが、現在ではドイツでもほとんどつくられていないという。融点が低い腹脂をたき、溶ける温度のまま絞って絵や文字を書き込む。まるでデコレーションケーキのような製品ができあがった。

 また、捕虜の設計で大正6年に建設された「船本牧舎」(国の登録有形文化財)が鳴門市にあり、高さ2m、幅・奥行き1.5mのレンガ造りのスモークハウスが併設されている。これを50年ぶりに使用させてもらい、アイスバインやカスラーなど5種類の製品を8時間かけてスモークした。

10月に復刻発表会

 全国フォーラムの参加者ら50人程度を対象に開催された復刻発表会では、鳴門市助役のあいさつに続き松本取締役が復刻の経緯について説明。小林マイスターは技術的な考証の経緯について発表した。木村主任が15種類の製品を説明。捕虜の子孫・ディアラーン氏の発声で乾杯し試食を行った。

 この復刻発表会には東映の出目昌伸監督らスタッフも大勢、駆けつけた。後日談だが、「バルトの楽園」で収容所展覧会のシーンが取り上げられる予定になっている。そのときには、今回の復刻ソーセージがきっと登場することになるだろう。

(株)食肉流通社 The Meat Journal (November 2005) より転載

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